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福岡高等裁判所 昭和32年(ラ)134号 決定

抗告人 中村繁

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  抗告の趣旨及び理由は別記の通りである。

二  (1) 抗告理由第一点について。

本件競落許可決定の言渡された昭和三二年九月二七日より前の同年八月一〇日抗告人(債務者兼不動産所有者)と競売申立債権者との間において、抗告人が即日債務のうち三万円を支払つたこと、なお残余の債務並びに競売手続費用一切を同年一〇月一五日かぎり支払うことを条件として、競売申立債権の弁済期を右一〇月一五日まで猶予するいわゆる義務履行の猶予契約が成立したことは、抗告人提出の領収証及び証明書並びに記録に照らして認められるところであるけれども、かかる場合、抗告人は執行の方法に関する異議を申し立てて執行吏の競売を阻止し、あるいは、競売の済んだ後は競落期日に出頭して競落の許可につき異議を申立てて競落の許可を阻止しうるのはとも角、すでに原審が競落許可決定を言渡し、これに対し即時抗告がなされ移審の効力を生じた後において義務履行の猶予期間が経過したときは(附言すれば、当裁判所が原裁判所から本件記録の送付を受けたのは、猶予期間を経過した昭和三二年一〇月二五日であつて、このことは記録送付書並びに同送付書に押してある受附印に徴し明白である。)抗告裁判所がその裁判をなす当時は、もはや競売手続の続行を妨ぐべき事情は存在しないので、結局競落を許す決定をなす趣旨において抗告棄却の決定をなすべきものであることは、抗告審の性格上当然である。所論はこれに反する見地に立つもので採用し難い。

(2) 同第二点について。

しかし競売申立債権者と抗告人との間で、競売を取り下げる契約の成立したということは、競売法第三二条第二項により準用される民訴第六七二条第一号の強制執行を続行すべからざることに当らない。このことは競売法第二三条の規定からも推論されるところである。所論は理由がない。

よつて抗告を理由なしと認め主文の通り決定する。

(裁判長判事 鹿島重夫 判事 中村平四郎 判事 秦亘)

抗告理由

第一点本件債務の弁済期未到来により競売は許されない。

一、抗告人と債権者樺島利貞間で昭和三十二年八月十日左の協議に達した。1抗告人は債権者に対し昭和三十二年十月十五日限り金八万円及びこれに対する利息並損害金競売手続費用一切を支払うこと。2抗告人は即日前記債務の内金として金三万円を支払うこと。3債権者は協議成立の日より向う十日以内に本件競売申立を取下げること。

よつて抗告人は直ちに金三万円を支払つた。

二、ところが債権者が右競売取下の手続を懈怠した為遂には競売及び競落許可となつたがそもそも前記協議によつて本件債務の弁済期日は昭和三十二年十月十五日に延期されたものであるから右満期前の競売は許されない。(民事訴訟法第六八一条第二項同第六七二条第一項競売法第三二条第二項)

第二点競売を取下ぐべき契約が成立しているから競売手続の続行は許されない。第一点において掲げた如く債権者は昭和三十二年八月十日より向う十日以内即ち同月十九日迄に本件競売の取下げを為すべきところ之を為さなかつた。而して右取下げに関する約定は弁済期日の延期を内容とし且前提とするものであつて当然取下げ事由が存在するから競売手続の続行は出来ない。

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